暮らし方やはたらき方に“インターバル”を取る

2020.9.26 | 株式会社シマトワークス 富田祐介

interview

企業と生産者をつなぐツアーや、企業研修、淡路島の豊かな資源を生かした場作りを行うシマトワークス。彼らがはじめようとしている淡路島でのワーケーションプログラムをひもとく手がかりとして、シマトワークス3人のはたらき方や暮らし方、生き方への向き合い方を伺いました。

(聞き手:No.24藤田祥子)

僕らがやってきたこと、
もしかして役立つんじゃない?

– 改めて、今回の活動に至るまでの活動について聞かせてください。

ぼくらシマトワークスは、瀬戸内に浮かぶ淡路島という島に拠点を置きながら3人で活動しています。僕が島にわたってきたのは、2011年のこと。もうすぐ10年になります。

2012年から2016年まで実施されていた、地域の雇用創出を目的とした厚生労働省の委託事業「淡路はたらくカタチ研究島」の立ち上げをきっかけに島へやってきました。経営者やデザイナー、編集者やファシリテーターなど、さまざまな講師を淡路島に招いて、年に300人を超える参加者たちと「はたらき方」や「生き方」を考えました。

2014年に「わくわくする明日をこの島から」をモットーに掲げる、シマトワークスとして独立。島をフィールドに置きながら、地域や分野、個人・団体・企業を超えて企画提案を行ってきました。昨年には、友人だったふたりが仲間になって、事業や活動範囲もさらに広がりはじめています。

シマトワークスの設立式を行った淡路島のいちご園にて

– そんなシマトワークスの新たな活動としてはじまろうとしているのが、ワーケーションプログラムなんですね。

実は昨年から提案したいと準備をはじめていたプログラムだったんです。ですが、この2020年に広がった新型コロナウィルス感性症の拡大によって、誰しもが大きな影響を受けましたよね。

会社に行って働いて家に帰ってくる。仕事の後に友達とあって呑みに行く。休日は家族や気のおけない仲間たちと遊びに出かける。

そんな当たり前のことができなくなって、これまでの働き方や暮らし方を一新しなければならなくなりました。

シマトワークスでは、これまでもリモートワークや二拠点生活に近い暮らし方をおくってきたメンバーが集っています。僕自身も年に1ヶ月間を海外で過ごす、12分の1海外暮らしを3年ほど続けてきました。

世の中がざわつきはじめて、多くのひとたちが急速な変化を余儀なくされる中で、今こそワーケーションプログラムが、みんなにとって役立つんじゃないかと思いはじめたんです。

ベトナムでの12分の1海外暮らしの様子

たとえばリモートワーク。多くの人が家で働いてみて良いことも沢山あったと思うけど、大変だったことも沢山でてきたと思うんです。仕事とプライベートのオンオフがぐちゃぐちゃになってしまったとか。

会社にはデスクがあって、始業時間があって、休日があって、集中して仕事するための場所があったわけです。いざリモートワークってなったら、会社が提供してくれていたオフィス空間の心地よさみたいなのを、自分でつくらないといけないわけですから大変ですよね。

今もなお新しいことだらけ、もとに戻ったようでそうではなくて。この3ヶ月ほど余儀なくされた暮らしの形は、またどんどん変わっていく可能性が高い。そうなったとき、暮らしやはたらき方、生き方をどうするか。会社側も、社員さん自身も、ちょっと落ち着いて考えてみる必要があると思うんです。

12分の1 海外暮らしから見えた
「インターバル」とは?

– さきほどの話にもあった、12分の1海外暮らしというのは普通の旅行とはまたちがうのですか?

「暮らしの実験」と題して、一年の一ヶ月をベトナムで奥さんと過ごし始めました。当初は、はたらき方も含めて、暮らしにもう少し刺激があってもいいなというくらいの気持ちでスタートしたんです。

3年やってみて、今では自分たちにとって大切な期間になっていて……。あの1ヶ月がないとちょっともうやっていけないなって言うくらい笑。

単純に楽しいだけじゃなくて、何かをいつも感じて帰ってきていました。それって何だろうって3回やってみて、繰り返し考えて。今年やっと「インターバル」という言葉が浮かびました。自分たちがベトナムでやってたのって、旅でも休暇とも違う。暮らしとかはたらき方のなかにインターバルをとってる感じだなって思ったんですよね。

海を眺めながら働く(ベトナム ニャチャンにて)

– インターバルというのは、スポーツでよく聞く言葉ですね。

はい。いつもの日本での暮らしやはたらき方は、100%以上の力を使いながら動いている期間です。ベトナムへも日本の仕事を持っていって、ビデオ会議とかしながら、日本でいるのと変わらないくらい働いています。

ただ、一ヶ月日本を離れると、関係性が大きく変わるんですよね。友人や同僚、家族や自分との関係性が。物理的距離があるので、圧倒的に出会う人が減るんです。

他者との関係性が減ったことで、逆に増えるのが自分や家族との時間です。そこに集中できる。1ヶ月のあいだ、思いっきりそこに時間を注いでみると、自分にとってベストといえる心や頭の状況が整っていたんですよね。

ベトナムでは仕事など停止はしないけど、早い鼓動を保ったままちょっとゆるやかに動き続ける。インターバルをとっているというイメージです。

会社で働いていたら、平日があって休日があって。休みの日にリセットして整えていたのかもしれない。けど、リモートワークみたいに、休みもはたらく日も境い目がぼやけてくると、いつ休んだのかわからなくて気がつくと息切れ……みたいな笑。

「自分をベストに整える時間」という意味でインターバルをはさむ、すると次の100%の動きに繋がるなぁって実感しました。

自分らしい暮らし方・はたらき方を
10年間ずっと、考えてきた

– 自分自身の体験を通して感じたことを、これからワーケーションプログラムで形にしていこうとされているんですね。

そうですね、僕たちが身をもって感じたこの状況を、淡路島で仕組として提供すればいいんじゃないかって昨年くらいから考えるようになりました。淡路島ならこれまで僕たちが見つけてきた、心地よくて気持ちいい時間や空間、人たちをつないでいけるからです。

島の中には色々な仕事と働き方が存在している

会社のチームやメンバーと一緒に淡路島へやってきて、「どうやったら、心地よくはたらけるかな?」っていうのをちょっと実践してみる。こういうサイクルで働けばできそう!とか、そういうのを自分のなかでつかみながら、自宅に戻ってリモートワークしてみる。ひとりでずっと働いているとどうしても暮らしのリズムが乱れるもんだから、定期的に島でインターバルを設けて、はたらき方をメンテナンスする。そうやって自分のはたらき方を定着させていくと言うか。そういうプログラムを提案できたらいいなと考えています。

– そうした島の中のネットワークがあるのも、訪れる人にとっては魅力的ですね。

農家、畜産家、漁師、料理人など色々な仲間が島に集う

都会でもいろんな人たちがいるし、いろんな場所がある、そこに住む人もはたらく人も多種多様。でもそれを、ぼくが本当の意味で理解したのは淡路島に来てからです。

島でいろんな人たちに出会って、自分とはまったく違うはたらき方を目の当たりにしたんです。自然と自分のはたらき方を見直すようになって。僕自身、自分のはたらき方ってなんだろうって何度も考えてきました。そこから独立してシマトワークスになっても、仕事や生き方、どんなのがいいんだろうって。

日々更新しながら、この10年はたらき方のことをずっと考えてきたんだと思います。

たぶんこれから、同じ業種だったとしても、リモートワークが増えればはたらき方の裾野は広がっていくと思います。いろんなはたらき方があるってインプットしていれば、めっちゃ楽しいはたらき方とか、自分にフィットしたはたらき方をつくり出せるかもしれないですよね。

僕だけじゃなくて、シマトワークスのメンバーも持ってる、今の段階での考え方とか方法論をプログラムで提供していきたいと思っています。はたらき方って自分でつくるもので、心地いいと思うのは自分だから。こうやればいいよっていう仕組みをいくつかプログラム化させて、色んな人と島での時間をシェアできれば嬉しいです。

あとはワーケーションを考えている人たちが淡路島にたくさん集まって、そこでのコミュニティができたり、集まって何かを考えたりすると新しいものがさらに生まれそうな予感がある。

そんな妄想をめぐらせて、僕はわくわくしています。